【インプラント学会発表2】上顎前歯部に骨移植を伴わずに1ピースインプラントを用いた抜歯後早期埋入症例の検討

2011年12月 日本顎顔面インプラント学会

上顎前歯部に骨移植を伴わずに1ピースインプラントを用いた抜歯後早期埋入症例の検討

The evaluation of early implant placement for the anterior maxilla using 1 piece implants without bone graft

新宿区 岸本歯科医院 岸本幸康

目的

近年、インプラント治療は予知性が高まるにつれ適応症の拡大がなされている。特に上顎前歯部の歯槽堤は抜歯後急速に吸収することが多く、インプラントの埋入が困難になる場合がある。一般的には骨移植やGBRなどの骨造成術を行ない歯槽堤の改善を行なってインプラント埋入を行なうことが多い。しかしながら、移植骨を採取するため新たな手術創を作ることになり、患者の負担も増すことになる。したがって骨移植を回避してインプラントの埋入が行えれば理想的である。上顎前歯部に骨移植を伴なわずに抜歯後早期にインプラント埋入を行なった症例に対して検討を加え報告する 対象と方法

2005年1月から2011年8月までの間、上顎前歯部にアドバンス社製AQBインプラント1ピースタイプを用いて骨移植を伴なわずに抜歯後2ヶ月以内にインプラント埋入を行なった症例で、上部構造の装着が完了した26症例30本を評価対象とした。埋入は抜歯窩の口蓋側歯槽骨に行ない、近心側、遠心側および口蓋側歯槽骨にHAコーティング部が完全に埋入されるようにインプラント埋入を行なった。唇側の骨欠損部に対して、術中回収骨が得られた場合唇側にもどした。しかし極めて微量であった、骨を採取するためのドナーサイトは作製しなかった。人工骨使用もしなかった。以下の項目について検討した。
1)対象の性別および年齢、
2)抜歯からインプラント埋入までの期間
3)インプラント埋入部位
4)使用したインプラントの直径およびそのHAコーティング部の長さ
5)暫間被覆冠使用を含めたインプラント埋入から咬合圧加重までの期間

結果

26症例30本すべてオッセオインテグレーションが得られた。上部構造を装着した30本のインプラントは現在まで良好に機能している。対象の性別は男性18名、女性8名であった。年齢は40代が10例で最も多かった。抜歯からインプラント埋入までの期間は抜歯即時の例が16本で最も多かった。埋入された部位は側切歯が14本と最も多かった。使用されたインプラントは直径4mmが17本。長さ10mmが16本と最も多かった。暫間被覆冠使用を含めた咬合圧加重までの期間は。埋入後2~3ヶ月が最も多く10本であった。

考察及び結論

上顎前歯部のインプラント治療は咬合機能の回復だけではなく、審美的側面が重要視されるようになってきた。上顎前歯部唇側の歯槽骨は抜歯後急速に吸収するため、インプラント埋入にあたり、骨移植や人工骨の使用により歯槽堤の形態の改善を図り2回法インプラントを用いることが多い。2回法インプラントではフィクスチャーとアバットメント接合部のマイクロギャップまで骨が吸収をおこすことがあり、一般的には口蓋側と唇側の歯槽骨の高さをそろえてインプラント埋入をおこなうことが必要となる。一方1ピースインプラントではフィクスチャーとアバットメント接合部のマイクロギャップが存在しないため、必ずしも口蓋側と唇側の歯槽骨の高さをそろえる必要はない。そのため吸収した唇側歯槽骨に骨造成を行なわなくてもインプラント埋入ができる症例があると考えられる。抜歯窩の口蓋側に深めに1ピースインプラントを埋入し、インプラント唇側の空隙には近心側および遠心側歯槽骨からの骨再生を期待することになる。したがって、近心側、口蓋側および遠心側歯槽骨の存在が条件になる。今回すべての症例でオッセオインテグレーションが得られたこと。上顎前歯部に1ピースインプラントを使用し骨移植を回避して抜歯後早期にインプラント治療を行なう可能性を示したものと考えられた。インプラント埋入に際し、最低でもどの程度の歯槽骨が必要な、またどの程度深くインプラントを埋入すればよいかは今後の課題だと考えられる。

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